青 色 浮 上 走 行





初めて買ってもらった絵の具セットに入っていた「ぐんじょういろ」のことを、俺はずっと変な名前の色だと思っていた。
 そんな色聞いたこともなかったし、となりの青とちょっと違う色だとは判っても、「みどり」と「きみどり」や、「むらさき」と「あかむらさき」のような関連性を感じ取ることが出来なかった。だからなのか、何となく青の偽物みたいに見えて、あまり使いたくなかったのを覚えている。
 “群青”という漢字をあてることを知ったのは、中学に入ってからだ。
 それ以来俺は、こんな風に高くて澄みきった濃い色の空を見ると、「ああ、青の群れだなぁ」と思う。秋の空は、空色ではなく、群青色だ。
 もっとも、実際の群青色は青に紫が混じったような色なので、この空の色を表すのにはあまり相応しくないことも判っている。単に、俺の中にある青の群れの色が、今日みたいな空の色をしているというだけだ。
「郁也、それこぼれる」
「え、あ」
 隣からの声に、俺は慌てて手首をまっすぐに戻した。斜めに傾いていたペットボトルを持ち直し、開けっ放しだったキャップを急いで閉める。
「空に何かあんの」
 飲みかけのペットを片手に、ぼうっと空を見上げていた俺をちょっと不思議に思ったらしい。隣にいた弘鷹にそう問われ、俺は小さく首を振った。
「…別に。晴れてんなぁって」
 俺達の頭の上には綺麗な秋晴れが広がっていた。夏が終わってから結構経つのに、日除けもないコンビニの駐車場に座り込んでいると、ちょっと暑く感じるくらいの陽気だ。頭のてっぺんを触ってみると、少し熱かった。
「確かにどっか行きたくなるくらい、いい天気だな。休みの日に晴れって、久しぶりじゃねぇ?」
 隣に座っていた弘鷹はそう言いながら立ち上がると、大きく伸びをした。
 確かにここんとこ、週末は何故か雨が多かった。もっとも晴れていたって、それ程遊びに行く場所がある訳じゃない。ここは駅前に汚いゲーセンがひとつあるだけの小さな田舎町だし、そもそも俺も弘鷹も中3だ。つまりは受験生。本来、こんな風にだらだらしている場合じゃないはずだ。
 現に今日も、弘鷹の家に行くと言ったら、親に「一緒に勉強するのね」と、参考書を押し付けられてしまった。俺も弘鷹も成績は同じくらいだったが、いつも平均点の辺りをうろうろしているお仲間というだけで、二人とも決して良い方ではない。母親としては、せっかくの土曜の午後を少しでも有効に使わせたかったんだろう。でも俺は鞄の中の参考書を取り出しはしなかったし、弘鷹の方も勉強なんてする気はなかったようだ。結果、俺達はそれぞれペットボトル片手に、暢気にコンビニ前に座り込んでるという訳だ。 
 とは言え、夏休みが終わると急に周りが受験モードになったのは事実だった。俺だって部活を引退するのはその為だと解っていたし、進路のことを考え始めなきゃとは思っていたが、周囲の変わりように正直ちょっとびっくりしていた。焦った、というより、何だか不思議で、ヘンな気分だった。
「……なぁ郁也」
 同じようにしばらく空を見上げていた弘鷹が、ぽつりと呟くように俺の名を呼んで、振り向いた。
「海行かねえ?」
 言葉の意味を理解するのに少しかかった。俺は車止めの上に腰掛けたまま、ゆっくりと弘鷹の顔を見上げる。
「…お前それ、気ィ早いにも程があるだろ」
 いくら暖かいとはいえ、今は既に秋だ。夏を迎えるには季節が一周しなければならない。
「いや、来年の話じゃなくてさ」
 弘鷹は俺の前にしゃがみ込んで視線を合わせると、にっと笑った。
「今、これから」
 目を見開いた俺に構わず、弘鷹は続ける。
「言うなれば、日帰り小旅行?泳げねーけど天気はいいし、気持ち良さそうだろ」
 突拍子もないことを言い出した弘鷹に、俺は小さく溜息を吐くのが精一杯だった。
「…お前、今月はかなりビンボーだって言ってなかった?」
 今だって、ペットボトルの方が長く楽しめるとかいう理由で、同じ値段のアイスを諦めていた。
「俺だって、海まで行く金なんて持ってねーし」
 そう呟いて、俺は肩を竦めた。
 ローカル線は運賃が高い上、海へ行くには、ここからだといくつか電車を乗り継がなければならない。遊泳禁止区域でもいいなら多少は近くなるが、そもそもまっすぐに海の方向へ向かう路線がなく、かなり遠回りをしないと辿り着かないのだ。
「金はかかんないよ。コレで行けば」
 コレ、と弘鷹が指差したのは。
 自販機の横に、並べて停めてあった俺と弘鷹の自転車。
 俺は今度こそ本当に呆れて肩を落とした。
「……お前さ。何時間かかると思ってんの?」
「んー、ま、二時間くらいじゃねぇ?電車と違って遠回りする必要ないし、国道まで出ればほぼ一本道だし」
 ごく普通の調子で返されて、思わず返答に詰まる。
 二時間と言えばかなりの道程だし、そんな遠くまで準備も計画もなしにいきなり出発、なんて自分には到底出来ない発想だ。一方奴の方は、なんかちょっと行きたくなったんで行ってみよっかな、程度の口調。自由というか脳天気というか、深く考えてないのがよく分かる。
 でも。
 俺が断ったとしても、多分こいつは一人で行くだろう。
 迷いなくそういうことが出来る奴だと、俺は知っている。
 だからこそ、首を振ることが出来なかった。放っとけない、なんて偉そうな理由からじゃない。
 置いて行かれるのが、嫌だった。
「…ナビしろよ、俺は道知らねーんだから」
 殊更大きく溜息を吐いてみせた俺の肩を、弘鷹はぽんと叩いた。
「任せろ」
 立ち上がった弘鷹を見上げると、同時に青の群れが視界を埋める。群青色の空を背にした弘鷹は、嬉しそうな笑顔を浮かべたまま、真っ直ぐに俺を見ていた。自分の体温が一瞬ぱっと上昇したのが分かったけど、いつものように気付かないフリをする。
 空の色と太陽の光が眩しい。俺は微かに目を細めながらゆっくりと立ち上がり、楽しげな相手の声に促されるまま、自転車へと手を掛けた。陽に晒されていたハンドルが、少し暖かくなっていた。



 弘鷹は、俺の家から歩いて三分の所に住んでいる。物心ついた頃からずっと一緒にいる、いわゆる幼馴染というやつだ。
 ちょっとだけ垂れ目でどこか愛嬌のある顔は昔と変わらないが、背だけは妙に伸びるのが早くて、現在随分と差をつけられている。器用だから割と何でもこなすけど、俺とは違って部活動には入っていなかった。入学当初、一緒にあちこちを見学した時、どこに入っても理不尽な上下関係に縛られそうだと、結局無所属の道を選んだのだ。何事も強制されるばかりで選べない状況になるのが嫌だったんだろう。流されやすい俺と違って、周りがそうだからとか、誰かに言われたからとかだけじゃなく、自分で納得しないと動かないタイプなのだ。我儘だ、という奴もいたけど、俺はそれだけだとは思わない。こいつが自分の言動に対して言い訳をしたのを見たことがないし、他人に言われた通りに動くのは、責任を回避出来る、ある意味楽なやり方だということに気付いたからだ。
 弘鷹は、何をするにも自分の頭で考え、自分で決断出来る奴だった。
 俺はそれを、少し羨ましく思っていた。
 しばらくは見慣れた町並みが続いたが、何度か道を曲がるにつれて、徐々に建物の数が少なくなっていった。道そのものは綺麗に舗装されているが、両脇は田んぼと畑が続く、実にのどかな風景になっていく。この辺りは高い山がないお蔭で見晴らしも良く、黄金色に光る稲穂の波が揺れている様が、視界いっぱいに広がっていた。風はあまりなかったが、自らの足が作り出している分だけで十分気持ち良い。
 そういえば、小さい頃は隣町へ行くだけでも、かなりの大冒険だった。体が大きくなるのに合わせて自転車も大きくなったけれど、不思議と冒険距離が伸びることはなかった。簡単に征服出来る条件が揃ってしまうと、あえて挑戦しようという気にはならないものなのかもしれない。だからといって、急に何10キロもの冒険をすることになるとは、思ってもみなかったのだが。
 隣を伺うと、暢気に鼻歌を歌っている横顔があった。車通りが少ないから、聞くつもりがなくても、耳に入ってきてしまう。奴が口ずさんでいるのは流行りの歌などではなく、商品名を連呼する、いかにもローカルな感じのCMソングだった。単純な歌詞とメロディーなだけに、一度聴くと脳内から離れない、CM効果は抜群だが厄介な代物。
「やめろって。うつるから」
 苦笑しながら、流れていく風景に目をやる。いつの間にか黄金色の範囲が少なくなり、別の色が混じり始めていた。背の低い野菜たちは、それぞれ決められた範囲からはみ出ることなく、礼儀正しく成長している。上から見ると、たくさんの四角い緑のパズルが並んでいるように見えるかもしれない。奥の一角には一面赤紫の花が咲いている畑もあって、やけに目立った。そこだけわざと周りとは溶け合わない色を塗られているみたいだ。
 弘鷹は懲りずに同じ歌を歌い続けていた。いい加減に止めて欲しかったのと悪戯心が手伝って、横を走る奴の自転車を軽く蹴飛ばすと、相手の体がぐらりと揺れた。
「おわっ」
 間抜けな声に思わず笑いを漏らすと、弘鷹は口を尖らせて、こちらを振り向いた。
「お前なぁ…こっから先は危ねーんだから、そーゆーのはナシだぞ」
 顔に似合わず足癖悪いとか何とかぶつぶつ零していたのは無視して、俺は前を見た。次の交差点を曲がれば国道だ。道は広くなるが、その分車の量もスピードも増えるだろう。確かに、あまりふざけるのは危険だ。それどころか、気紛れに広がったり狭まったりする歩道のお蔭で、その後は横に並んだり縦に並んだり、互いの位置を調整しなければならなくなった。田畑はいつの間にか姿を消し、周囲は様々な種類の木々が乱立している林へと変わっていく。手入れのされていない雑木林は、緑と少しの黄、それに微かな赤が混じった微妙な色合いで、等間隔に置かれている真新しい街灯とガードレールとは、雰囲気的に噛み合わない気がした。目印になるようなものがないせいか同じところをぐるぐる回っているみたいで、段々と時間の感覚がなくなっていく。
 結局、海辺の町に辿り着いたのは、出発してから三時間近く経った頃だった。思った程疲れを感じなかったのは途中何度か休憩をしたのと、ペダルを漕ぐペースが緩やかだった為だが、そのせいで太陽が傾き始めるのに追い付かず、ようやく見えた日本海は既に群青色ではなくなっていて、俺はちょっとがっかりした。こぢんまりとした住宅街を抜け、海岸沿いの道に出た頃には、水面は橙色に染め上げられ、灰色がかった波が不規則にその光を散らしていた。
「砂浜降りよっか」
 弘鷹の言葉に頷いて、スピードを緩める。波除けの為なのか道路は砂浜よりも高い位置に作られていたので、下に降りられる場所を探してウロウロしているうちに、町外れまで来てしまったようだ。細い道路には人影どころか車も通っておらず、足元から響く波音だけがやけに大きく聞こえる。
「あーすげー潮の香りがする」
 路肩に自転車を止めた俺達は、さくさくと砂を踏みながら、波打ち際へと向かった。乾いた砂は安定が悪く、歩いていると時々体がおかしな方向へ傾く。ひょこひょこ動く相手の背中が妙に可愛く見えて、俺は小さく笑いを漏らした。
「何?」
 零れた声に気付いたのか、弘鷹が振り向く。
「何でもない」
 ちょっと変な顔をされたけれど、俺はそう言って、立ち止まった弘鷹の隣に並んだ。
 水平線の上に、輪郭のぼやけた大きな太陽が浮かんでいる。オレンジ色の球体は綺麗だとは思うけど、景色をくっきりと浮かび上がらせる昼間とは違って、夕方になると辺りを強引に同じ色に染めたがるのは何でだろうと、少し不思議に思う。
 ふと隣に視線をずらすと、じっとこちらを見ている弘鷹と目が合った。何だか急に恥ずかしくなって、目を逸らす。不自然になってしまった動きをごまかすように、俺はもそもそと口を開いた。
「あ、あのさ。もしかしてこんな遠くまで来んの、初めてじゃなかったりする?」
「…いや、さすがにここまで来たことはないな。せいぜい半分くらいまでかも」
 半分って。それでも充分遠い。
 いつの間に、と呟いた俺に、弘鷹は小さく笑った。
「俺いつも、放課後ヒマだったからな。一人で結構色んなとこ行ってた」
 湿った風が、シャツの裾を翻しながら通り過ぎる。僅かだが肌寒さを感じ、俺は自分の腕をそっと撫でた。
「やっぱそっか」
 ぽつりと漏れた言葉に、弘鷹が聞き返す。
「何がやっぱり?」
 一瞬返答に困ったが、俺は視線を下に向けたまま答えた。
「……何となくお前は、俺の知らない景色とか、色々見てんだろーなって感じがしてたから」
 波打ち際まではまだ距離があるが、この辺りまで来ると足元の砂は湿っていて、固くなっている。微かに沈んだ自分の爪先を見つめ呟いた俺に、弘鷹は首を傾げて
「んーまあ、少しはそうなのかもしれないけど…」
 考えるように間をおいてから、言葉を続けた。
「俺は、同じとこ見てても、お前が見てる景色の方が俺のよりも綺麗なんじゃないかって思ってたけどな」
 言われた台詞を反芻しながら、俺は目線を上げた。ざらざらとした音を響かせながら、波が砂上を滑る。
「…どういう意味?」
 思わずきょとんと、弘鷹の顔を見上げてしまった。目が合うと、今度は何故か相手の方が困ったように視線を逸らした。
「や、何となく。郁也って時々、じーっとどっか眺めてたりするからさ」
 でも、俺が同じとこ見ても、何も見つけられなかったりするんだよな。
 ぼそぼそと何だか照れ臭そうにそう言って、弘鷹は朱い空を見上げる。
「そういう時のお前の顔見ると、何かさ。俺とは違う色とか形とか見えてんのかなって…そう思って」
 びっくりした。
 確かに、埒も無いことを考えながら、目の前の景色を眺めてることはあるけれど。その時自分がどんな表情をしているのかなんて考えたこともなかったし、勿論見られていることにも気付いていなかった。
「だからさ、探せば同じもの見れる場所があるのかなって。少し遠出してみたりして」
 それは俺にとって、思いも寄らない台詞だった。
 俺は海を眺める弘鷹の横顔から目を離すことが出来なくなっていた。頬が紅潮しているのが自分でも分かる。弘鷹の顔が赤いのは夕陽に染められているせいかもしれないが、俺の顔が赤いのは、確実に自分の熱のせいだった。
 だって、弘鷹が口にしている言葉は、俺にとってかなり嬉しいものだったのだ。
「俺…俺の方がいつも弘鷹のこと追いかけてるつもりだった」
 いつからそんな風に思うようになったのか、もう忘れてしまったけど。
「お前って気ままで、自由にどっかいなくなっちゃうし」
 俺は弘鷹に、多分特別な感情を抱いている。それは相手にとって、一番の友達ではなく、一番の存在になりたいという、我儘な――しかも軽蔑されても仕方のないような邪な想いまで含まれている、ある意味救いようのない感情だったけれど。
「でも、遠くまで行っちゃったとしても、俺はお前を手放すつもりはないから」
 幼馴染とか親友とか、言い訳はいっぱいあるから、それを全部利用してでも。
「追っかけてやるって、そう思ってた」
 自分の方が相手に影響を与えてる部分なんてないと思ってた。文字通り一方的に追いかけてるだけだと思っていたから、多分俺の顔には嬉しいと思う気持ちがそのまま出てしまっていたんだろう。
 弘鷹は何だか見たことのないような複雑そうな顔で振り向き、しばらく俺の顔を見つめてから、ふっと目を細めた。
「何か、すげ熱烈な告白された気分」
 思わずびくっと手が震えた。もう少し言葉を選べば良かったと後悔したけど、もう遅い。上手くごまかせる台詞が浮かばず、視線が泳いでしまう。
 それに、何故だろう。
「…じゃあ、そう思ってれば」
 滑り出た自分の言葉は、いつもは頑なに隠していたとは思えない、ある意味開き直りとも言えるようなもので。
 俺は心のどこかで、自分の気持ちを知って欲しいと思っていたんだなと、今更気が付いた。非日常的な風景の中にいるせいで、箍が緩んでしまったのかもしれない。
 それでも、どこか曖昧な台詞だ。弘鷹は多分、単なる冗談と受け取るだろう。
 もうこれ以上余計なことを言わないようにと、橙色の水面に走る光の道を黙って眺めていたら、急に横から腕を引っ張られた。
「郁也」
「え」
 足元がもつれ、少しよろける。頭を上げると、俺の顔を覗き込む瞳と目が合った。真っ直ぐに見つめられて思わず息を止めた瞬間、弘鷹の顔がふわりと近付いて、そして離れた。
 キスされた、と気が付くまで、暫くかかった。
 呆然と見上げる俺の頭を軽く叩いて、弘鷹はちょっと照れ臭そうに微笑んだ。
「帰ろっか」
 上手く頭が回らず、何だかぽかんとしたまま
「あ…え、もう?」
 などと間の抜けた台詞を返した俺に、弘鷹は小さく頷く。
「だってもう、かなり満足」
 そう言って、弘鷹は俺の手を取り歩き始めた。連れられるまま一緒に歩き出すと、すぐに砂に足を取られて、体が傾く。よろけた俺に気付き、弘鷹は俺の手を握る力を強くした。ぎゅっと掴まれた掌から温もりが伝わり、急に胸の辺りが熱くなる。
 キスされたことより、手を繋いでることの方が恥ずかしいなんて、おかしいだろうか。
 一瞬だけ触れた唇よりも、絡まる指の形と温かさがリアルで、妙に心臓がドキドキしている。
 もつれそうになる足を何とか動かして石段を登りきると、弘鷹は俺の手を掴んだまま、ふと後ろを振り向いた。同じように砂浜から海原へと視線を流すと、太陽が半分程水平線に隠れているのが目に入る。夜の色が混じり出した空が、水面に広がる橙色を海の底へと沈め始めていた。
「…今度は、青い色の海が見たいな」
 ぽつりと漏れた言葉に、弘鷹は微笑んだ。
「そうだな」
 確認しなければならないことがたくさんあるけれど、それは帰り道にでもゆっくり話せばいいだろう。何しろ、また三時間近くも自転車を漕がなければならないのだ。明日は筋肉痛で動けなくなってしまうかもしれない。しばらくは遠出などしないで、大人しく勉強するのが一番だろう。何しろ俺達は受験生で、多分、同じ高校を目指すことになるだろうから。
 そんなことを考えながら、俺は濃い藍色へと染められていく海を眺めていた。隣に立っている弘鷹も何だか嬉しそうに波間を見つめていて、
「また来よう」
 俺の手を握ったまま、暖かい声でそう言った。










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